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保守党を「ぶっ壊せない」メイ首相

イギリスではEUからの離脱をめぐって相変わらず混乱が続いている。日によって状況が大きく変わるのでこの場に及んでも結論を予想しにくいが、メイ政権が議会をコントロールできない状況が続いている。最新の状況では、メイ首相は合意なき離脱を避けるために野党第一党の労働党に協力を要請し政権と労働党との間で協議か続いている。しかしながら、このことが党内野党化している保守党内の強硬離脱派からの反発を呼んでいる。一方でメイ首相が労働党に対して譲歩を示そうとしていないとの指摘もあり、事態が改善に向かうかは依然として不透明である。


実質的に「ハング・パーラメント」のイギリス議会


さて、そもそもなぜ離脱手続きが上手くいっていないかと言えば、メイ政権が実質的に少数政権であり、議会内のどの勢力も過半数を掌握できない状況が生じているからである。これでは政治的な対立があるイシューに対して議会は何も決断が下せなくなってしまう。こうした状況はハング・パーラメントと呼ばれるが、この問題に加えて、何回も否決されているにもかかわらずメイ首相が同じ内容の協定案を通そうと頑なな態度を取り続けてきたことが、堂々巡りが繰り返されている理由である。

「首相による議会の裁量的解散」とは首相が自分の都合が良い時期に議会を解散することを意味するが、私はハング・パーラメントの出現を防ぎつつ首相の裁量的解散を制限することが民主主義の安定に貢献すると考えてきた。それゆえ、私はこの二つを同時に実現させるためにはどのような制度設計をすべきかずっと考えてきたが、メイ首相の迷走ぶりを見ると裁量的解散は制度改正で防ぐことが出来たとしてもハング・パーラメントは制度では防ぐことが出来ないと思った。どんなに緻密な制度設計を行っても、選ばれたリーダーの資質により政治の失敗は起きうるのである。


信念がないメイ首相


メイ氏はもともとEUに対しては懐疑的だったが、EU離脱を問う国民投票の際には残留支持を表明した。しかし残留を求める表立った運動には参加せず、逆にこのことにより彼女は残留派と離脱派の調停者としての役割を期待され、漁夫の利を得る形で保守党の党首および首相に就任したのである。彼女がEUとの関係に対して明確なヴィジョンを持っていないように見えるのは首相就任の経緯を見れば当然であり、そのような人物に交渉のハンドルをゆだねたこと自体が保守党の犯した大きな間違いだったと言えるのではないであろうか。

上述のように、メイ首相は自身の提案が何回も否決されてきたにもかかわらず同じような内容の離脱案を議会に提出しつづけてきたが、この頑固さは彼女の政治的信念に基づく行動ではなく、私には、彼女が自身が首相になった経緯から「秩序のあるEU離脱を早期に実現すること」が自分に与えられた使命であると一人で思い込んでいることに起因しているように思える。

ここにきてメイ首相は労働党が要求する「2回目の国民投票」の実施を検討し始めたという一部報道もあるが、この背景には4月10日に開催予定となっている臨時EU首脳会議にメイ首相がイギリス議会で可決承認された離脱協定案を提示しない限りイギリスは4月12日に自動的にEUから離脱となってしまうことがある。自身の離脱案の成立が絶望的になった以上、「何もできなかった首相」という汚点を残したくないメイ首相が、再度の国民投票を受けいれる可能性はゼロとはいえない。しかしながら、そうすれば保守党内の意見対立は決定的なものになる。EU離脱問題に対して信念があるとは思えないメイ首相が、良くも悪くも小泉元首相や野田前首相のように反対派を排除して党を「ぶっ壊す」勇気があるかは疑問である。


メイ首相は残留派?


10日まで何も合意が実現されなかったとすれば合意なき離脱必至ということになるが、混乱を懸念するトゥスクEU大統領が10日のEU首脳会議において、「12か月間の離脱延長」を提案し、イギリスに振り回されることを嫌うフランスのマクロン大統領も最終的には渋々同意することも考えられる。今回これが認められれば、イギリスのEU離脱騒動が毎春の風物詩となるかもしれない。そうなれば、EUのイギリスに対する視線はこれまでになく冷たいものになるだろう。ところで、10日まで何も合意が実現されなかったとすれば、メイ首相の心のどこかに「最終的にはEUが助けてくれる」という甘えがあることになる。そう考えれば確かに彼女は「残留派」だと言えるかもしれない。
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プロフィール

鈴木しんじ

Author:鈴木しんじ
1972年生まれ。

東京都中野区出身。

東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了。

東京工業大学博士(理学)

千葉県議会議員、国会議員公設秘書を経験。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。武蔵野大学政治経済研究所客員研究員。専門は政治経済学、公共経済学。

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