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「休業補償」実現には財務省攻略が不可欠

 公明党の山口那津男代表は、15日、安倍首相に対して所得制限なしで国民1人当たり10万円の給付を実現するよう要請した。この要請の背景には、安倍政権が直接的な金銭支援を伴う休業補償を拒否している事への国民の不満が高まっていることがある。首相は「方向性を持って検討する」と述べたことから、この現金給付が実現する可能性がある。

 実現すれば、多額の財政支出が必要となるものの、今本当に困っている人たちの生活を当面救うことはできるだろう。なので個人的には反対はしないが、現在政府が最もやるべきことは、テレワークの導入が困難で生活必需品関係以外の事業者およびその従業員に対して、直接補償を与えて休業してもらうことだ。そのためには財務省にこれを認めさせることが不可欠だ。

危機感を強める財務省

 首相は、14日の衆院本会議でも「個別の損失に限定して直接補償を行うことは現実的でない」と答弁した。何故、G7で事業者にも従業員に対しても、直接補償を行っている国が「現実に」複数存在するのに「現実的でない」などと言えるのか聞いてみたい。そのようなことを共産党の小池晃氏から再び追及されれば、首相はしどろもどろになってロクに答えられないだろうが、首相が簡単に直接補償を認めるとは思えない。首相は確固たる信念があって直接補償を拒否しているのでなく、財務省が巨額な財政支出を伴う直接補償を拒絶しているからできないのだろう。なお、4月10日の衆院財務金融委員会において、野田佳彦前首相(元財務相)が麻生財務相(元首相)に対し、「赤字国債の発行は相当な覚悟を」、「財政の警報装置を作るべき」と述べたが、このことは財務省が危機感を持って野党にもアプローチしている証左である。

 なので、最大のネックは財務省であり、安倍首相に直接補償を認めさせるには財務省への追及を強める必要がある。ところで何故、財務省はここまで頑ななのだろうか。もちろん、G7でダントツに最悪の債務残高の対GDP比と増え続ける社会保障費を考えれば、彼らが赤字国債を発行して財政支出を増やしたくないのは容易に理解できる。

直接補償なしで80%削減は無理

 しかし、ここで事業者および従業員への直接補償を渋れば、テレワーク化を進められない企業では依然として従業員は出勤し続け、人と人との接触機会を80%削減できるはずはない。当然、感染拡大の終息は困難だ。感染者が増えるほど医療崩壊が起きる可能性が高くなり、医療崩壊が起きれば本来救われるはずの命が救われなくなるのでより多くの死者を生む。一方で、感染拡大が抑えられなければ、旅行業や飲食業だけでなく「人の移動」が集客上非常に重要な要素となる産業では倒産が相次ぎ、税収も減るうえに政府はより多くの失業手当を払わなければならなくなる。そうなれば、緊急事態宣言以前のレベルまで経済活動を戻すのはより多くの時間がかかる(これは仮にワクチンや有効な治療薬が開発されたとしても同じだろう)。感染拡大と不況が続き、これに自然災害が加われば想像を絶する事態が起きよう。

 そう考えれば、①事業者とその従業員両方への十分な休業補償を行うことにより大多数の事業者の休業を可能にする(個人的には法改正してでも強制的ロックダウンを行うことに賛成だがそれはひとまず脇に置いておく)、②これにより人の移動を最少化にすることで新たな感染者を減らすのと医療崩壊を防ぐ、③一か月から一か月半後に緊急事態宣言は残すものの休業要請を解除する、というプロセスで徐々に経済活動を再開させた方がよほど合理的に思える。一方で、業績回復が当面見込めない産業から他の産業への一時的な転職を可能にしこれを促すなどして、補償総額を減らしていくべきだ。

 上記は英仏独伊西などのヨーロッパ諸国の政府が思い描く経済回復へのプロセスだと思うが、PCR検査の少なさなどを考慮しても日本の方がはるかにこれらの国々よりも感染者数と死者数の対人口比が低いだろうから、日本の方がこのプロセスを実現するのは楽だろう。休業補償は最大の経済対策と言われるのは合理性がある。

財務省は集団免疫をやりたい?

 頭の良い財務官僚がこれくらいのことを考えないとは思えないので、もしかしたら彼らの狙いは他のところにあるのかもしれない。すでにネット上では言われていることだが、この際、感染拡大を放置し高齢者を中心として多数の死者を出すことで、人口ピラミッドの高齢化を食い止め、社会保障費の削減が可能になるとさえ考えているのかもしれない。集団免疫で残った人は病気にかかりにくいであろうから医療費の削減につながるなどと考えているのかもしれない。自分達が感染して死ぬ可能性を顧みずに国の財政を憂うのは、ある意味国家への奉仕心が相当強いのだろうが、それは思ったような結果を残せないだろう。

 というのは、下記の様なことが生じるであろうからである。

1. 高齢者の有権者数が多く投票率が高いゆえに選挙を考えれば政治家は高齢者を見殺しにできないので、早晩政策の転換を求められる。これは、イギリス政府が当初、集団免疫戦略(十分な数の人が軽く発症し免疫をつけること)を考えていたが世論の反発により撤回に追い込まれた例を見ればわかる。

2. 仮に感染爆発で多数の高齢者の死が生じた場合、国民の間で自分たちの父母を見殺しにした財務省に対する不信感がたまる。今以上に増税アレルギーが強くなるので、当然、さらなる消費増税は無理。

3. コロナウイルスにより多数の高齢者の死が生じたとしても、それは人口ピラミッドを動かすほどになるとは考えにくい。厚生労働省クラスター対策班の西浦博・北海道大教授公表した「何も対策を取らない場合」での死者予測は約40万人、仮に2倍になっても80万人だ(私はこの数字が少ないとは全く思わない。年齢別人口比を大きく変えるものではないと指摘しているだけだと留意していただきたい)。そのうちの8割が高齢者だったとしても、これは日本の高齢者人口約3600万人の2%以下である。ちなみにスペイン風邪による国内での公表死者数は約39万人で当時の人口約5670万人の0.7%、これを現在の日本の人口に当てはめても約87万人となる。
 高齢者の死による国民負担率(租税負担及び社会保障負担を合わせた義務的な公的負担の国民所得に対する比率)の減少は限定的である上に、感染拡大を放置することにより病院に患者が殺到し医療費が増えるので、社会保障費は減らないだろう。万一、社会保障費を一時的に減らすことが出来ても、社会の生産性が高まるわけでも人口が増えるわけでもないので再び国民負担率は高くなっていく。さらに、ウイルスは増殖する過程で変異して強力になるので、感染拡大を放置すればより多くの若年層の命を奪い、一定数の生産年齢人口の減少を招く。

4. 感染リスクが減らないので人々は外出を自粛し続けるから、消費が回復せず不況が長期化する。

 それゆえ、感染拡大放置は私にはとても合理的な選択だとは思えない。ワクチンや特効薬の開発が遅れることを前提にしても、早く経済活動を閉じて感染拡大を食い止め、できるだけ早く経済活動を再開させ、生産性を高める企業活動を要請する方がよほど合理的だと思う。財務省が経済官庁であるからには、財務官僚には財政収支に頭が支配されて国民生活と経済の崩壊を招くことは絶対にやめてほしいものである。

国民を見殺しにする政府が税金を徴収する資格はない

 色々と仮説を立てて述べてきたが、財務省が直接補償に反対する理由は他にもあるかもしれない。そうだとしても、反対することが大多数の国民の利益になるとは思えない。いずれせよ、大胆で直接的な休業補償を実現するには、徹底的な理論武装で財務省を陥落させる必要があろう。安倍首相や政権の閣僚に圧力をかけることは必要だが、財務省の考えを改めさせなければ事態は好転しないだろう。国民を見殺しにするような政府に存在意義はないし、そのような政府が税金を徴収する資格はない。


 追記:財務省に関連することでもう一点。多くの企業や公的期間の決算は3月末である。「有価証券報告書」の提出期限は9月末まで延長されたが、決算書類の提出と税金の申告・納付の延期が認められるべきである。また、手続きの非効率性がさんざん指摘されている押印の省略も認められるべきだ。企業の経理担当者、公認会計士、税理士が出勤を続けなければならない状態は解消されるべきである。
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プロフィール

鈴木しんじ

Author:鈴木しんじ
1972年生まれ。

東京都中野区出身。

東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒、慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了。

東京工業大学博士(理学)

千葉県議会議員、国会議員公設秘書を経験。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。武蔵野大学政治経済研究所客員研究員。専門は政治経済学、公共経済学。

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